■髪の毛はどのようにつくられるのか
頭皮をはじめ身体の様々な毛は、すべて皮膚が変形したものです。毛髪の形成は皮膚の表面を覆う表皮とその下の真皮との間に「ここに毛髪をつくれ」という信号を受け渡されることによって始まります。この信号が発せられた部分だけ皮膚が毛に変化できるようになるのです。材料となるのはグルタミン酸・ロイシン・アルギニンといった様々な種類のアミノ酸で、毛細血管を通り、毛乳頭に運ばれます。まず、真皮細胞が毛髪をつくる場所に集まり、細胞の塊をつくります。同時に表皮細胞が、細胞分裂によって数を増やしながら真皮の中へと落ち込んでいきます。そしてその先にある真皮細胞の塊を包み込みます。するとそこに毛乳頭細胞と呼ばれる細胞ができ、この細胞が表皮細胞を毛母細胞に変えるのです。毛母細胞が活発に増殖していく過程で、毛髪が形成されていくのです。




(1)信号を受け取ると、真皮細胞は毛髪をつくるべき場所に集まり、細胞のかたまりをつくる。同時に表皮細胞が細胞分裂によって数を増しながら、徐々に真皮の中へと落ちこんでいく。

(2)
落ちこんでいった表皮細胞が、その先端に真皮細胞のかたまりを包みこむ。すると、この真皮細胞が毛乳頭細胞に変化する。

(3)
次に毛乳頭細胞が近くの表皮細胞を毛母細胞に変化させる。毛母細胞は活発に増殖しながら、ケラチンとよばれる毛の主成分を多量につくる。さらにメラニンという黒い色素を吸収したのち、細胞どうしが固く結びつき、毛髪へと変化する。毛髪は次々と細胞分裂する毛母細胞に押し上げられながら、表皮細胞のさやの中を通って表面に顔を出す。


■大切な毛乳頭のはたらき

毛髪の形成に最も重要な細胞は…そのカギを握っているのが毛乳頭細胞であることが、次のような実験で明らかになりました。毛が生えていない足の裏の皮膚に毛母細胞と毛乳頭細胞を移植します。そうすると、毛母細胞のみを移植した場合には毛は生えてきませんが、毛乳頭細胞といっしょに移植した場合には毛が生えてきたのです。つまり、毛髪形成には毛母細胞だけでは不十分であり、毛乳頭細胞が大きな役割を果たすことが解かったのです。毛乳頭細胞のはたらきには三つあり、第一に「毛髪形成の引き金を引く」、次に「表皮細胞を毛母細胞に変化させる」、そして「毛母細胞を刺激して毛髪を伸長させる」というはたらきです。しかし昨今、多くの研究者の方々は毛髪の形成には毛乳頭細胞だけではなく、毛母細胞の元となる幹細胞と呼ばれる細胞が不可欠であろうと考えられています。後に述べる幹細胞とは表皮細胞の一種ですが普段は増殖していません。


■毛はどうして抜けるのか

毛髪はある一定期間伸びると、伸びるのを止め、やがて抜け落ちます。しかし、しばらくすると同じ場所から再び毛が伸び始めます。「伸びる~休む~抜ける~伸びる」を繰り返すのです。この生え変わりの周期を毛周期、或いはヘアーサイクルといいます。個人差もありますが、頭髪の毛周期は2年~6年で平均すると4年程です。そのうち休止している期間は3~4ヶ月です。大体90%以上の毛髪が成長期にあるのが適正といわれています。毛髪の伸長が止まると萎縮し始め、短くなって皮膚の浅いところに移動します。またこの時、毛乳頭も小さくなって固まってしまいます。これが休止期です。休止期が終わると、毛根は再活性し、伸長を始めます。まず萎縮していた毛乳頭が復活し、近くのバルジと呼ばれる場所にある幹細胞を刺激し、毛根が再び伸長すると考えられています。ここでもやはり、毛乳頭細胞と幹細胞の相互作用が重要なのです。やがて伸長した毛根が元の深さにまで達すると、新たに毛母細胞がつくられます。そうして毛髪の伸長が再度始まり、成長期に入っていきます。



<男性型脱毛症>
俗にいう「若ハゲ」のことで、青年期から壮年期に起こる脱毛症のことです。髪の毛が細くなり、次第に抜けていきます。進行するとかなりの部分で脱毛します。原因は男性ホルモンの過剰分泌などですが、血流障害によるという説もあります。

<円形脱毛症>
直径2~3センチの円形や卵型の脱毛斑ができ、進行するにつれて数が増えたり、大きくなったりします。原因はストレスやアレルギー、自律神経の異常、内分泌障害などといわれていますが、定説はありません。


■抜け毛・薄毛を防ぐには

市販の薬剤は、主に血行の促進、脂質や老廃物の除去、栄養補給を謳っています。特に血行の問題は、脱毛と密接に関わっていると思われます。毛髪の伸長に深く関わっている毛乳頭は、血管がよく発達しているので、血流によって酸素や栄養素が多量に運ばれます。実際、血行促進作用のある薬剤が臨床試験でも効果がみられ、血行を良くするだけでも、ある程度の男性型脱毛症を防ぐことができると考えられています。毛母細胞は非常に活発な細胞分裂が行われます。これをまかなうだけの栄養が行き渡らなければ、毛は当然やせ細ってしまいます。偏った食事や不規則な生活はもちろん禁物です。ストレスやタバコは血行障害の元になり易いので、できるだけ避けた方が良いでしょう。また、頭皮の血行を良くするため、頭皮を傷つけないように注意してマッサージすることを心がけましょう。特に脂性気味の方は、毎日洗髪をして頭皮を清潔にする必要があります。頭皮を常に清潔に保たなければ、毛穴に詰まった脂質や老廃物を栄養として細菌が繁殖し、毛根が炎症を起こしかねません。

<次のことに心がけましょう>
食事に気をつけ、栄養を充分に摂る
   
  ストレスをうまく発散し、溜め込まない
こまめに洗髪し、頭皮マッサージをおこなう
  タバコは血行を悪くするので控える